Gross Lease(グロスリース)
gross lease とは何か、貸主がどのように運営費を負担するか、どのような場合に借主に適するか、そして APAC における近い形態を整理します。
最終更新: 2026-05-06
gross lease(グロスリース)は、full-service lease とも呼ばれることがある賃貸借形態で、借主が単一の総額賃料を支払い、建物の運営費、すなわち税金、保険、光熱費、清掃、修繕、管理費を貸主が負担する契約です。借主は1本の支払いで安定したコストを確保でき、変動は貸主が吸収します。これは商業賃貸借の中で最も単純な形態であり、オフィスビルでは modified gross(修正グロス型)が主流になる前の歴史的な標準形でした。
gross lease の仕組み
仕組み自体は明快です。ベース賃料は、貸主が見込む運営費と利益を織り込んだ水準で設定されます。建物の暖房費が上がれば、その負担は貸主が負います。固定資産税が上がった場合も同様です。借主が負うインフレリスクは、賃貸借契約に定める escalation 条項に限られ、通常は毎年の固定率引上げ(年2.5%から4%)または CPI 連動です。
貸主が運営費リスクを負うため、gross lease は同等の区画について triple-net lease より平方フィート当たり賃料が高く見える傾向があります。ただし、gross と net の見出し賃料だけを比較しても意味はありません。比較すべき指標は net effective rent であり、gross rent から本来借主が負担したはずの運営費を差し引いて、実質的に何が残るかで判断します。
借主にとって gross lease が適する場面
gross lease が適しているのは、次のような場合です。
- 借主の規模が小さく、運営費の変動を管理したくない場合。
- 借主区画が大規模な複数テナントビルの一部であり、費用の直接配賦が事務的に重い場合。
- 賃貸借期間が短く、通常は1年から3年で、運営費エクスポージャーが限定される場合。
- 借主が経済的な上振れよりも予算の予見可能性を重視する場合。
その代わり、借主は運営判断をコントロールできず、貸主が建物をどう運営しているかの可視性も限定されます。また、建物の運営コストが下がっても、その経済的メリットは貸主に帰属し、借主には還元されません。
gross と modified gross と net の違い
純粋な gross lease は、現在の米国大規模オフィスマーケットでは一般的ではありません。市場で「full-service」と呼ばれる契約の多くは、実際には base year(基準年度)付きの modified gross です。つまり、借主は一定の base year の運営費を織り込んだベース賃料を支払い、その base year を 上回る 費用だけを追加で負担します。たとえば、base year の運営費が1平方フィート当たり12ドルに設定され、3年目に13ドルへ上昇した場合、借主は追加の1ドル分について自己の按分割合のみを支払います。純粋な gross は固定費で広くカバーする構造に近く、modified gross は deductible に近い考え方です。
triple-net lease はその反対です。ベース賃料は低く設定され、借主が税金、保険、運営費を別途負担します。NNN は単独テナント型リテールや net-lease 投資で主流であり、gross と modified gross は複数テナント型オフィスで主流です。
gross lease を交渉する際の論点
重要なのは3点です。
第1は escalation の仕組み です。毎年3%の固定引上げは予見しやすい一方、CPI 連動はより公平でも変動性があります。「CPI または4%のいずれか低い方」という上限は、借主に有利な中間案です。複利的な文言には注意が必要です。「前年賃料に対して3%」であれば複利となり、「当初ベース賃料に対して3%」であれば複利にはなりません。
第2は 「full service」から何が除外されるか です。gross lease であっても、テナント固有の光熱費、たとえば時間外 HVAC、専用回路、サーバールーム冷却、ビル標準を超える清掃、一定量を超える廃棄物処理などは除外されることがあります。何が含まれ、何が含まれないかの境界は、交渉で動きます。
第3は、base year が適用される場合の base year における運営費の定義 です。貸主が base year を人為的に低く設定することがあります。たとえば、一部期間のみの年度で開始した場合や、稼働安定前の年度を base year に置く場合です。その結果、借主は実態のない低い基準に対する escalation を支払うことになります。base year は、通常の稼働状態にあり、満床前提で gross-up(満床換算調整)された年度であるべきです。そうでなければ、その代わりにより高いベース賃料を交渉する必要があります。
APAC における近似形
香港やシンガポールでは、「inclusive」または「all-in」型の賃貸借が gross lease に近いものの、実務上は多くのオフィス賃貸借で management fee をベース賃料と分けて定めます。ベース賃料の表示は運営費控除後に近く、management fee と government rent / property tax を加えることで、実質的に gross 相当の数字になります。アンダーライティングでは、常に net effective ベースで見る必要があります。
日本のオフィス賃料では、歴史的に 共益費 がベース賃料に含まれるか、または並列して表示されます。旧来の契約では「共益費込み」で賃料を表示することが多く、機能的には gross lease に近い構造でした。近年の東京、特に丸の内や大手町では、賃料と共益費を分ける契約が増えており、実務上は modified gross に近づいています。
どの構造であっても、比較可能な経済条件は、表面上のベース賃料、escalation、運営費要素の切出しまたは内包の有無、そして gross-up ルールです。gross lease、modified gross、net が混在する契約群を同じ基準で比較したい場合は、LeaseTrace が各契約からこれら4項目を出典付きで抽出します。