Holdover Tenancy(契約満了後の継続占有)

賃貸借契約の満了後も借主が占有を続けた場合に何が起こるか、holdover rent の倍率、sufferance と consent の違い、APAC の実務を整理します。

最終更新: 2026-05-06

Holdover(契約満了後の継続占有)とは、借主が契約期間満了後も、更新契約や正式な延長契約を締結しないまま賃借区画の占有を続けている状態を指します。これは法的に扱いが難しい状態であり、完全に終了したわけでも、正式に更新されたわけでもありません。そのため、実務では賃貸借契約自体が、holdover 時に何が起こるか、特に借主がどの賃料を支払うかを詳細に定めているのが通常です。

holdover が生じる典型場面

最も多いのは、更新交渉が契約満了日までにまとまらない場合です。双方とも継続を想定しているものの、新契約または正式延長書面が未締結のままです。借主はそのまま使用を続け、貸主は賃料を受領し、書類が追いつくまで、当事者は中間的な状態で運用を続けます。

これより少ないものの、借主が退去予定だったにもかかわらず予定どおり出られないケースもあります。新オフィスの引渡し遅延、build-out の遅れ、移転計画の変更などが典型です。この場合、借主は退去できず、無権限の holdover 状態に入ります。

いずれにせよ、借主は有効な現行契約なしに区画を占有しており、貸主には対応する権利があります。

契約書に通常ある内容

多くの商業賃貸借契約には、次の内容を定める holdover clause があります。

賃料倍率。holdover rent は、ほぼ常に従前の base rent にプレミアムを上乗せした水準です。典型例は base rent の 150% から 200% で、さらに高い場合もあります。これは意図的な設計です。貸主は holdover を抑止し、その結果生じる混乱コストを価格に織り込みたいからです。契約によっては、倍増後の base rent に加えて、operating expense の pass-through は 100% のまま別建てで維持されます。

month-to-month か at-will かの区別。貸主が異議を述べずに holdover rent を受領した場合、多くの法域では、従前契約と同条件、ただし倍率後賃料での month-to-month tenancy が黙示されます。これに対し、貸主が賃料受領を拒み、明渡しを求めている場合、借主は「tenant at sufferance」となり、比較的短い通知で退去を求められます。

貸主損害に関する damages clause。holdover により貸主が新規入居予定テナントへ区画を引き渡せない場合、契約上、貸主は結果損害を回収できることがあります。たとえば、新テナントから失った賃料、移転費用、brokerage fee などです。これは倍率後の holdover rent に加えて請求されます。金額は holdover rent 自体を大きく上回り得ます。

権利放棄否定条項。貸主が holdover rent を受領しても、それだけで明渡請求権や損害賠償請求権を放棄したことにはならない、という条項です。

holdover 条項の交渉ポイント

借主が特に調整すべき点は 3 つあります。

まず 倍率そのもの です。150% は概ね妥当です。200% から 300% は強めであり、短期滞在に限って受け入れる水準です。200% を超えるなら、少なくとも超過滞在の最初の 30 日から 60 日については借主有利の carve-out を付けるべきです。特に更新交渉が継続中であれば重要です。

次に 結果損害のテール です。超過滞在について無制限の結果損害を負う構造は実務上かなり重いリスクです。新規テナントが契約済みで待機している場合は特にそうです。損害賠償の上限を、たとえば倍率後賃料の 3 か月から 6 か月分に制限すべきです。

最後に good-faith carve-out です。holdover の原因が、双方が関与する継続的な更新交渉にある場合、一定の猶予期間、通常は満了後 60 日から 90 日については倍率を適用しない形が考えられます。その期間中も、双方が誠実に更新交渉を続けることを条件にします。

貸主同意ありの holdover と同意なしの holdover

ここには細かいものの重要な区別があります。

貸主同意ありの holdover は、貸主が賃料受領または書面確認により、継続占有を積極的に認めている状態です。これは month-to-month tenancy として扱われ、法定通知期間、通常は 1 か月で終了させられるものの、終了されるまでは継続します。

Tenancy at sufferance は、貸主が同意していない holdover です。借主は法的には不法占有者に近い立場となり、最小限の通知で排除され得ます。貸主は、まだ行動していないだけで、権利を放棄しているわけではありません。

すべての選択肢を維持したい貸主は、各やり取りを慎重に記録し、holdover rent の受領が契約継続の承認と解釈されないよう運用します。

APAC の実務

香港では、オフィス賃貸借に 150% から 200% の賃料倍率を伴う holdover clause が一般的です。Conveyancing and Property Ordinance が一部の黙示的賃貸借概念を下支えしますが、実務では契約文言が優先します。

シンガポールも概ね香港に近いです。Civil Law Act にデフォルトルールはあるものの、商業賃貸借契約がその多くを上書きします。

日本では、借地借家法上の 法定更新 が借主保護を強く働かせます。貸主は、住宅や一定の商業賃貸借について更新を容易には拒絶できません。もっとも、国際水準のオフィス賃貸借における holdover は、主として契約の明示条項で処理されますが、借地借家法は全体として借主寄りに作用します。貸主が満了で確実に終了させたい場合の実務上の手当てが fixed-term lease(定期借家契約) であり、通常は holdover 条項も明確に置かれます。

US、HK、SG、JP の契約が混在するポートフォリオでは、各契約の holdover 倍率、damages cap、good-faith carve-out をそろえて把握することが、収益モデルと更新計画の前提になります。LeaseTrace で更新・holdover 条項を確認する と、これらの項目を原契約のページ出典付きで整理できます。