Modified Gross Lease(修正グロス型賃貸借)
modified gross lease が貸主と借主の間でどのように費用を分担するか、base year がなぜ重要か、APAC のオフィス賃貸借でどのように現れるかを解説します。
最終更新: 2026-05-06
modified gross lease(修正グロス型賃貸借)は、純粋な gross lease と triple-net lease の中間に位置する構造です。借主は、一定の「base year(基準年度)」の運営費をすでに含んだベース賃料を支払い、その後は base year を 上回る 運営費について自己の按分割合を負担します。これは米国のクラスAオフィスで支配的な形態であり、APAC の中核オフィスマーケットでも一般化が進んでいます。
base year の仕組み
base year は暦年であり、通常は契約初年度、更新案件ではまれにそれ以前の年度が基準になります。貸主はその年度における建物運営コストを平方フィート当たりで算定し、税金、保険、光熱費、清掃、修繕、管理費、そして契約で認められる場合は償却対象の資本的支出を含めます。この数値が base year stop であり、expense stop と呼ばれることもあります。賃貸借契約締結時に提示されるベース賃料には、この数字が織り込まれています。
その後の各年度について、貸主は運営費を再計算します。新しい年度の費用が base year より高ければ、借主は差額のうち自己の按分割合を支払います。逆に新しい年度の方が低い場合でも、通常は返金されず、賃料の下限は維持されます。
これは triple-net と本質的に異なります。NNN では、借主が毎年の運営費全額を負担します。これに対し、base year 付き modified gross では、借主が支払うのは base year を超える delta のみです。5年から10年の期間で見ると金額差が縮まることはありますが、予算の予見可能性は modified gross の方が大幅に高くなります。
なぜ base year の選定が重要か
modified gross lease の公正性は、base year の水準でほぼ決まります。高く、gross-up(満床換算調整)済みで、かつ満床稼働を前提とした base year は借主を保護します。これに対し、通常の安定稼働年度より低い、または人為的な base year は、借主に実態のない基準値から escalation を負担させ、契約を実質的に net lease に近づけます。
避けるべき典型的な落とし穴は3つあります。
一部期間しか含まない初年度。契約開始が7月であるのに、base year をその暦年全体とした場合、1月から6月には実際の占有がなく、建物運営コストは低く出ます。翌年のフルコストは、その人為的に低い基準に対する「増加」として扱われます。対策としては、base year を最初の完全な暦年に合わせるか、安定稼働済みの過年度に固定することです。
gross-up されていない base year。base year 時点で建物稼働率が70%だった場合、変動費である光熱費、清掃費、消耗品費は、満床時より低くなります。その後稼働率が上がると費用も増えますが、借主は通常運営を反映していない基準値から escalation を負担することになります。建物が95%稼働であったと仮定して base year を再計算する gross-up clause を交渉すべきです。
更新時に動く base year。契約更新時に base year をリセットする条項があることがあります。一見すると借主に有利に見えますが、実際には、数年分のインフレを経た後の高い数値で貸主が再基準化できるため、過去の増加分をなかったものとして取り込む効果があります。更新条項は慎重に確認する必要があります。
何が operating expense に含まれるか
費用プールの定義がすべてを決めます。貸主に有利な modified gross lease では、operating expense を広く定義し、資本的改善、マーケティング費用プール、リーシングコミッション、賃料比率で算定される管理報酬まで含めることがあります。借主に有利な契約では、資本的支出を除外するか耐用年数にわたり償却し、リーシングコミッション、debt service、減価償却、そして貸主が他の特定テナントに直接転嫁できる費用を除外します。
audit rights も triple-net と同様に重要です。借主は、operating expense の計算内容を確認できる明確な権利を持つべきであり、重要な過大計上が見つかった場合には費用負担の転換条項を設けるべきです。
modified gross と full-service の違い
米国オフィスマーケットでは、「full-service」と「modified gross」が営業資料上ほぼ同義で使われることがありますが、実際の契約文言で判別する必要があります。契約に base year と、「base year を超える operating expenses」に対する escalation 条項があるなら、それは modified gross です。単一の総額賃料のみが定められ、費用の pass-through が一切なければ、それは真の gross / full-service であり、短期契約や小規模区画を除けばかなりまれです。
APAC におけるバリエーション
香港のオフィス賃貸借は、実務上は準 modified gross といえます。一般的な構造では、base rent を貸主に、management fee を管理会社に、そして government rent / rates を法定負担として分けます。base rent は契約期間中に段階的に上昇する固定額で、management fee は毎年上がり得るため、機能的には「base year を超える operating expense」の delta に近い役割を果たします。
シンガポールも同様で、service charge が management fee に相当し、期末の true-up を伴うことで、米国の base year メカニズムに近い構造になります。
日本では、共益費 が歴史的に坪当たり月額の固定額として設定されることが多く、true-up というより固定費として扱われてきました。そのため、感覚的には gross lease に近い構造です。もっとも、国際水準の東京オフィスタワーでは、特に外資系テナント向けに、精算条項を備えた米国型 modified gross が導入され始めています。
gross、modified gross、net が混在するポートフォリオを比較する場合、公平な基準は net effective rent と、base year およびその gross-up ルールの明確な把握だけです。LeaseTrace は、ポートフォリオ分析に必要なこれらの項目を契約ごとに抽出し、単一通貨・単一構造の前提で比較できる形に整理します。