TI Allowance(Tenant Improvement Allowance)

TI allowance の基本構造、定額型と turnkey 型の違い、対象費用の範囲、請求実行の仕組み、APAC における内装工事慣行を整理します。

最終更新: 2026-05-06

TI allowance は Tenant Improvement allowance の略で、貸主が借主区画の内装工事に充当する、または後日償還することに合意した金額を指します。賃料そのものに次ぐ大きな経済条件であり、同時に、契約文言上の定義によって利用範囲が強く制約されやすい項目です。

TI allowance の構造

代表的な形は 3 つあります。

fixed-dollar allowance は、オフィス賃貸借で最も一般的です。貸主が、賃貸面積 1 平方フィート当たり、または一時金総額で上限を約束し、借主が工事を実施します。たとえば、ニューヨークのオフィスで賃貸面積 1 平方フィート当たり 60 米ドル、香港で 1 平方フィート当たり 300 香港ドルといった形です。上限超過分は借主負担となります。上限未満で収まった場合でも、契約に明記がない限り、通常はフリーレントへ転換されません。

turnkey 型はその逆で、貸主が合意済みプランどおりに区画を完成状態で引き渡し、コスト超過リスクも貸主が負担します。郊外の小規模案件や、一部の APAC の core+ ビルで見られます。代わりに、借主が仕上げ仕様やスケジュールを細かくコントロールできる余地は小さくなります。

hybrid 型は、最も交渉余地が大きい形です。一定額の allowance に加え、貸主が引き渡し時点で整備すべき「shell condition」を定めます。たとえば、HVAC zoning、スプリンクラー密度、ベースビル照明、トイレ使用可能状態などです。契約上、どこまでが shell で、どこからが TI かを明確にしないと、精算時の争点が増えます。

対象費用と対象外費用

この点は実務上よく争われます。貸主有利の契約では、TI の対象を「hard construction costs」、すなわち間仕切り、天井、床、電気、機械、給排水などの直接工事費に限定し、soft costs(設計、エンジニアリング、プロジェクト管理)、FF&E(furniture, fixtures, equipment)、データ配線、テナントサインを除外することが一般的です。借主有利の契約では、これらの一部を対象に含め、soft costs については allowance 総額の 10% から 15% まで認める構成が見られます。

draw schedule も慎重に確認する必要があります。多くの契約では、支払いは請求書、元請・下請からの lien waiver、substantial completion の証明書などの提出を条件とします。最終完成と punch list 解消まで 5% から 10% を留保する契約もあります。借主が allowance を前提に業者へ支払う場合、draw のタイミングがずれると運転資金ギャップが生じます。

典型的な落とし穴は deadline to draw です。多くの契約では、賃貸借開始後 12 か月以内にすべての償還請求を提出しなければならず、それ以降は失権します。段階的な工事や許認可に時間を要する案件では、工事途中で交渉するのではなく、事前にこの期限を延長しておくべきです。

償却ベースで見た経済価値

TI allowance は、経済的には賃料条件の一部です。たとえば、10 年契約で賃貸面積 1 平方フィート当たり 60 米ドルの allowance は、割引率 6% を前提にすると、実効賃料を年間おおむね 1 平方フィート当たり 8 米ドル引き下げるのに近い効果を持ちます。物件売却や資本再編の局面では、net effective rent、すなわち表面賃料から TI の償却額とフリーレント期間を差し引いた実効賃料が重視されます。競合する 2 つの提案を比較する借主も、表面賃料だけでなく、この計算を行う必要があります。

APAC における違い

香港の貸主は、グレード A オフィスを bare shell with raised flooring and basic ceiling、いわゆる「warm shell」で引き渡すことが多く、TI allowance は安定市況では 1 平方フィート当たり 200〜500 香港ドル程度が一般的です。更新時には、全面改装ではなく仕上げ更新を目的とした小規模な refurbishment allowance が付くこともあります。

シンガポールも基本的な慣行は香港に近い一方で、貸主は TI を金額ではなく、2〜4 か月程度の「fit-out period」として示すことが多く、その間の賃料を免除する代わりに工事費は全額借主負担とするケースが目立ちます。純粋な定額 allowance は標準的ではなく、大型案件で見られる傾向があります。

日本のオフィス賃貸借では、従来 TI を貸主が負担する慣行は限定的で、借主が内装費を自己負担し、契約更新時には 更新料 を支払う例が一般的でした。もっとも、丸の内や六本木の国際水準ビルでは、特に外資系テナント向けに米国型 allowance を提示する事例が増えています。ただし、依然として一般的とは言えず、交渉初期段階で確認すべき条件です。

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